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野村佐紀子 Sakiko Nomura: Ango【日本語版】

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野村佐紀子 Sakiko Nomura: Ango【日本語版】
言葉:坂口安吾
写真:野村佐紀子
造本:町口覚
判型:213x150mm(A5判変型)
頁数:204頁
写真点数:69点
ツイストハードカバーバインディング(スリーブケース入り)
発行元:bookshop M

© 2017 Sakiko Nomura 
© 2017 bookshop M Co., Ltd.

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2Bチャンネル
野村佐紀子「Sakiko Nomura: Ango【日本語版】」#町口覚
7月19日 公開予定

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このたび弊レーベルでは、2017年に刊行した『Sakiko Nomura: Ango』を戦後80年という節目の年に、部数を限って再発売する運びとなりました。
本書は、坂口安吾の短編小説『戦争と一人の女』〈無削除版〉に、野村佐紀子が撮影した写真を編み込み、私自身が造本設計を手がけた書物です。

2015年にパリで起きた同時多発テロに遭遇した経験が、この書物をつくる大きな動機となりました。また、私の父と野村佐紀子さんの祖母が、ともに満洲からの引揚者であることを見つめ直す機縁にもなりました。

戦争に対する態度——この言葉を軸に、いまを生きる私たちが、どのように先の戦争と向き合い、考え、表現するのか?人は過ちを繰り返す運命にある——そう思わせる世界の空気が漂ういまだからこそ、再び届けたい一冊です。

なお、再発売日は【 2025年7月15日 】を予定しております。この日は、戦争を描いたアニメーション映画『火垂るの墓』が、スタジオジブリ作品として日本で初めて配信される日でもあります。野坂昭如の短編小説を原作に、高畑勲が監督したこの映画が、ようやく日本でも配信されることもまた、時代のひとつの転換点だと感じています。
また今回、野村佐紀子さんのご厚意により、再発売するすべての書物にサインを入れていただきました。
なお、在庫には限りがございますため、品切れの際は何卒ご容赦ください。
どうぞよろしくお願いいたします。

2025年7月1日
bookshop M
発行人/造本家 町口覚

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戦争に対する態度

 本書は、坂口安吾の短編小説『戦争と一人の女』【無削除版】に、野村佐紀子が撮影した写真作品を加え、新たに編集し造本した〝書物〟である。
 
 1938(昭和13)年、僕の父は満洲国営口に生れた。1945(昭和20)年、日本の敗戦によって満州国は崩壊し、父と家族たちは生活の拠り所を失った。1946(昭和21)年、彼らは内地へ向かう船の出る葫蘆島にやっとのことでたどり着き、博多港に引揚げてきた。
 父は、自らが引揚げてきた時と同じ8歳になった僕を、当時住んでいた横浜から東京まで丸々半日を使って歩かせた。僕の弟が8歳になった時には、博多港に連れて行った。僕も弟もその時の記憶は曖昧だ。だから父が引揚げてきた時の記憶も曖昧なはずだ。だがそこには、僕の近くに戦争はなくても、戦争に対する父の〝態度〟があった。記憶が曖昧だった父もきっと、僕が父の戦争に対する態度に接したのと同じように、当時、誰かの戦争に対する〝態度〟に接していたはずだ。
 
 1913(大正2)年、野村佐紀子の祖母は大分県玖珠郡で生れた。1935(昭和10)年、満洲国哈爾濱へ入植。1945(昭和20)年、日本の敗戦によって満州国は崩壊し、彼女と家族たちは生活の拠り所を失った。1946(昭和21)年、彼女らは内地へ向かう船の出る葫蘆島にやっとのことでたどり着き、博多港に引揚げてきた。
 僕の父と、野村佐紀子の祖母は、満州国から引揚げてくるまでの時間をある程度共有している。だから僕と同じように、佐紀子の近くに戦争はなくても、戦争に対する祖母の〝態度〟があったと思う。ただ、僕と異なるのは、佐紀子の祖母が引揚げてきた時には、すでに33歳になっていたということだ。佐紀子の祖母の記憶は、僕の父のように曖昧ではなかったはずだ。
 
 坂口安吾の『戦争と一人の女』は、そんな僕の父と、野村佐紀子の祖母が、満洲国から引揚げてきた年と同じ1946(昭和21)年に発表された。
 安吾、40歳の時だった。
 
 僕と野村佐紀子の近くに〝戦争〟はない、はずだった。戦争に対する〝態度〟が残っている、だけのはずだった。しかし僕は現在、世界のようすが、おかしくなっていると全身で感じている。戦争に対する残された態度ではなく、戦争自体が僕たちの近くにいる気がしてならないのだ。だから現在、僕はこの『戦争と一人の女』を文化が異なる国の言語にも翻訳し、世界に向けて発表することにした。
 辞書で「態度」という言葉を引いてみた。
 【情況に対応して自己の感情や意志を外形に表したもの。表情・身ぶり・言葉つきなど。また、事物に対する固定的な心のかまえ・考え方・行動傾向をも指す。(岩波書店/広辞苑 第六版/2008年1月11日発行)】と、記されていた。
 言葉で戦争に対する〝態度〟を残した坂口安吾は、『戦争と一人の女』の最後をこう締めくくっている。
「戦争は終ったのか、と、野村は女の肢体をむさぼり眺めながら、ますますつめたく冴えわたるように考えつづけた。」
 
 僕の父は、生きている。昨年、野村佐紀子の祖母は102歳で亡くなった。佐紀子はまだ、祖母の遺品を整理できていない。ますますつめたく冴えわたるように考えつづけよう。せっかく僕たちの近くには、戦争に対する〝態度〟がしっかりと残っているのだから。
 

 
 本書を刊行するにあたり、多大なるご理解と惜しみないお力添えをいただいたマーク・ピアソンさんと大西洋さん、また、英語版と独語版では、安吾の極端な言葉づかいを見事に翻訳してくれたロバート・ツェツシェさんに深謝いたします。
 そして、なによりも僕に〝ますますつめたく冴えわたるように考えつづける〟ことを教えてくれた坂口安吾さんと、腱鞘炎になりながらも暗室作業に没頭し、素晴らしい写真作品を快く提供してくれた同志!! 野村佐紀子さんに、深く深く感謝いたします。

2017年、夏の気配を感じる仮宿にて
町口 覚

(本書あとがきより)

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野村佐紀子(のむら・さきこ)
1967年山口県下関生まれ
1990年九州産業大学芸術学部写真学科卒業
1991年より荒木経惟に師事
1993年より国内外写真展、写真集多数。

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